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名古屋地方裁判所 平成元年(行ウ)34号 判決

原告

藤村伸次

右訴訟代理人弁護士

伊神喜弘

被告

愛知県教育委員会

右争訟事務受任者

愛知県教育委員会教育長

安井俊夫

右訴訟代理人弁護士

立岡亘

加藤睦雄

長屋貢嗣

右指定代理人

太田敬久

外八名

主文

一  被告が原告に対し昭和五九年二月一日付けでした原告の同日から同年四月三〇日までの給料及びこれに対する調整手当の合計額の一〇分の一を減ずる旨の減給処分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の地位

原告は、昭和四九年四月被告から愛知県碧南市公立学校教員に任命され、昭和五四年四月から昭和五九年三月まで同市立南中学校(以下「南中学校」という。)に教諭として勤務していたものである。

2  本件処分

(一) 被告は、昭和五九年二月一日付けで、原告には地方公務員法(以下「地公法」という。)二九条一項一号及び二号の事由があるとして、原告の同日から同年四月三〇日までの給料及びこれに対する調整手当の合計額の一〇分の一を減ずる旨の減給処分(以下「本件処分」という。)をした。

(二) 本件処分の事由は、原告は、①碧南市教育委員会(以下「市教委」という。)が昭和五八年四月二五日及び同年五月二三日に実施した昭和五八年度定期健康診断に係る胸部エックス線検査を受検せず、また、胸部エックス線検査を受検するよう命じた南中学校校長である近藤彰一(以下「近藤校長」という。)の職務命令を拒否したこと、②近藤校長が原告のした勤務条件に関する措置要求のための職務に専念すべき義務の免除申請を一部不承認としたにもかかわらず、昭和五八年一一月二八日午後一時三〇分から午後二時三〇分までの間職場を離脱したことがいずれも地公法二九条一項一号及び二号に当たるとするものである。

3  不服申立て

原告は、昭和五九年四月二日付けで、本件処分について愛知県人事委員会に対し不服申立てをしたが、同委員会は、平成元年九月五日付けで本件処分を承認する旨の判定をした。

4  本件処分の違法性

しかし、原告には地公法二九条一項一号及び二号に該当する事由は存在せず、本件処分は違法である。

よって、原告は、本件処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3はいずれも認める。

2  同4は争う。

三  抗弁

以下述べるとおり、本件処分は適法である。

1  本件処分の処分事由

(一) 胸部エックス線撮影の受検命令拒否

(1) 胸部エックス線撮影の受検義務について

学校保健法(以下「学保法」という。)八条一項は、学校における教職員の定期健康診断の実施を学校設置者に義務づけ、これを受けて、学校保健法施行規則(以下「施行規則」という。)は、その一〇条、一一条で、検査項目、方法等について定めている。その中の検査項目に結核の有無があり、その検査方法はエックス線間接撮影によるものとされている。また、地公法は、その五八条二項が教育の事業に従事する公務員に労働安全衛生法(以下「労安法」という。)の適用を認めているところ、労安法は、六六条一項において、「事業者は、労働者に対し、労働省令に定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。」と規定し、それに基づく労働安全衛生規則(以下「規則」という。)は、四四条で定期健康診断について定め、同条一項で、検査項目を定め、その四号で、施行規則と同様、胸部エックス線検査を検査項目としているし、施行規則及び規則でそれぞれ定める定期健康診断の他の検査項目及び検査方法もほぼ同一である。したがって、学保法八条一項に基づき学校設置者が行う教職員の定期健康診断は、同時に労安法六六条一項に規定する事業者の行う定期健康診断でもある。そして、労安法六六条五項は、「労働者は、前各項の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない。」と定め、但書において、「事業者の指定した医師……が行う健康診断を希望しない場合において、他の医師……の行うこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。」と規定しているから、教職員は、学保法八条一項の規定に基づき学校設置者の行う定期健康診断の一項目としての胸部エックス線撮影の受検義務があるというべきである。

(2) 地公法三二条等の定め

地公法三二条は、「職員は、その職務を遂行するに当たって、……上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と規定し、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)四三条二項は、「県費負担教職員は、その職務を遂行するに当たって、……職務上の上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。」と規定している。

(3) 本件エックス線検査と原告の受検拒否

① 市教委は、昭和五八年度教職員定期健康診断の一環として胸部エックス線検査を、昭和五八年四月二五日午後一時から南中学校で実施した(以下「本件エックス線検査」という。なお、後記②ないし④に係るエックス線検査を含めて「本件エックス線検査」ということがある。)。その際、近藤校長は、本件エックス線検査を事前にも周知させ、当日も職員室に在室していて受検が十分可能であった原告にその受検を命じたが、原告はこれを無視して受検しなかった。

② その後、公務等の都合で受検できなかった者を対象とする胸部エックス線検査が同年五月二三日に南中学校東門付近で再度実施されることになったため、近藤校長は、原告に対し、同日、これを受検するよう命じたが、原告はこれを拒否した。

③ その後、近藤校長は、原告に対し、同年五月三一日に碧南市役所で第二回の未受検者検診が行われる予定であるのでその受検も可能である旨通知したが、原告は、その検診も拒否して受検しなかった。

④ そこで、近藤校長は、度重なる指示にもかかわらずこれを無視して受検しない原告に対し、同年六月二〇日、「大至急、公立病院等でエックス線間接(直接)撮影の検査を受けてください。」と記載された職務命令書を手渡して受検を命じたが、原告は、これにも結局従わなかった。

⑤ 市教委の学校指導室長は、同年八月二二日に南中学校を訪れ、原告に対し、医学的にみて受検できない理由があるのであれば、医師の証明書を提出するか、若しくはエックス線撮影を受検するかをし、その結果を同月三〇日までに提出するよう伝えた。これに対し、原告は、いったんは医師の証明書を提出することを約したが、翌日、「西尾市民病院に証明書の作成を依頼したが、古いことで記録が見当たらず作成できないとのことであった。」との報告をするとともに、エックス線直接撮影を受検するよう努力する旨約した。しかし、原告は、結局胸部エックス線検査を受検した旨の報告をしなかった。

⑥ 原告は、碧南保健所で、喀痰及び血沈検査を受けてその結果異常なしとの記載のある診断書を近藤校長に提出したが、喀痰検査では活動性結核の発見はできないなどの欠陥があり、また、血沈検査も、活動性結核であっても血沈が促進しないものが少なくないため補助的診断法の一つとされているにすぎず、原告の受けたこれらの検査により、労安法六六条五項但書が定める胸部エックス線検査に「相当する健康診断を受け」たとはいえない。

(二) 職場離脱

(1) 措置要求をする場合と職務専念義務の免除の関係について

地公法三五条は、「職員は、法律又は条例に特別の定めがある場合を除くの外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のため用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」としていわゆる職務専念義務を定めている。そして、職務専念義務は、法律又は条例に特別の定めがある場合に限り免除できると定められているとおり、その基本は、公務優先の原則を前提とし、例外的に職務専念義務を免除することが公務の民主的かつ能率的な運営に支障がないと認められる場合のみ、これが免除されるべきものであって、その見地から、免除の手続については、年休における届出制とは異なり、承認制が採用されている。

他方、碧南市が制定した碧南市職員の職務に専念する義務の特例に関する条例(昭和三六年碧南市条例第二三号)によれば、県費負担教職員については県立学校職員の例によることとされているところ、県立学校職員に適用される職務に専念する義務の免除に関する規則(昭和二七年愛知県人事委員会規則八―〇)二条一〇号によれば、人事委員会に対して地公法四六条に基づく勤務条件に関する措置要求をする場合は、これに必要な時間につき職務に専念する義務を免除することができるものとしている。そして、右の職務専念義務の免除に関する承認に係る専決権は校長に与えられている。

(2) 本件職免申請の一部不承認と原告の職場離脱の経緯

① 原告は、近藤校長に対し、昭和五八年一一月二八日午前一一時四〇分頃、「愛知県人事委員会に措置要求書を提出するので、午前一一時五〇分から職免にしてくれ。」と申し出た。これに対し、近藤校長は、同日午前一一時五〇分以降における原告担当の授業、学校行事並びに愛知県人事委員会までの往路所要時間及び愛知県人事委員会における意見交換の時間を勘案の上、原告に対し、「本件午後二時三〇分から職免を承認する。」旨回答した。その後、原告は、教頭に対し、同日午後一時二〇分からの職務専念義務の免除を申請する内容の「休暇・職免承認願」を提出した(以下「本件職免申請」という。)ため、教頭は、原告に対し、重ねて同日午後二時三〇分からとするよう指導した。ところが、原告は、右指導に従わず、その後何の手続も取らずに、午後一時二五分頃職場を離脱した。

② その後、近藤校長は、公簿処理の必要から、原告に係る「療養休暇、特別休暇及び職免承認簿、欠勤簿」に「一一月二八日午後一時三〇分から二時三〇分まで欠勤一時間、同二時三〇分から五時まで休憩時間三〇分を除いた職免二時間」と記入の上、原告に対し、押印を求めたが、原告はこれに応じなかった。

③ なお、原告は、昭和五八年の年次休暇を同年一一月一五日までにすべて消化していたため、近藤校長としては、右欠勤時間につき年次休暇の届け出をするよう指導する余地はなかった。

2  1の懲戒事由該当性

(一) 1(一)によれば、原告は、本件エックス線検査を受検すべき義務があるのにこれを受検しなかったものであり、かつ、上司である近藤校長が再三にわたって発した胸部エックス線検査を受検するようにとの職務命令を殊更に無視し拒否し続けたものといえるから、これは、地公法二九条一項一号の「この法律若しくは第五七条に規定する特例を定めた法律……に違反した場合」及び同条項二号の「職務上の義務に違反し……た場合」に当たる。

(二) 1(二)によれば、原告は近藤校長により本件職免申請を一部不承認とされながら、昭和五八年一一月二八日の正規の勤務時間(午後一時三〇分から午後二時三〇分まで。)につき殊更に勤務しなかったものといえるから、これは、地公法二九条一項一号の「この法律……に違反した場合」及び同条項二号の「職務上の義務に違反し……た場合」に当たる。

3  本件処分の適法性

職員に地公法二九条一項各号に該当する事由が存する場合、被告が懲戒処分をするに当たっていかなる内容の処分を選択するかはその裁量に委ねられているところ、本件では、原告は、自説に固執し、権利の主張のみに走り、殊更に自らに課せられた義務を放擲したものとして、その義務違反の情状が極めて重いといわざるを得ないから、これらの事情を勘案の上された本件処分は、許容される裁量の範囲内でされた相当のものというべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)(1)は争う。

2  同(3)の①ないし④はいずれも認める。⑤のうち、原告が医師の証明書を提出することを約したこと及びエックス線直接撮影を受検するよう努力する旨約したことを否認し、その余は認める。⑥は争う。

3  同1(二)(1)は認める。

4  同(2)の①のうち、原告が本件職免申請をしたこと及び近藤校長が午後二時三〇分以降に限ってこれを承認したことは認め、その余は否認する。②は認める。③は不知。

5  同2及び3はいずれも争う。

五  原告の主張

本件処分は、以下の理由により違法である。

1  懲戒事由非該当その一

以下の事実によれば、本件処分に当たって、原告が本件エックス線検査の受検を拒否したことをもって地公法二九条一項一号及び二号の懲戒事由に当たると解することは許されないというべきである。

(一) 原告には、本件エックス線検査を受検すべき義務はない。

(1) 学保法八条一項は、学校の設置者に対し教職員に対する定期健康診断の実施を義務づけているものであって、教職員の受診義務を定めたものではない。

被告は、地公法五八条二項が教育の事業に従事する公務員に労安法の適用を認めていること、労安法六六条五項が、「労働者は、前各号の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない。」と定めていることをもって、教職員は、学保法八条一項の規定に基づき行う定期健康診断の一項目としての胸部エックス線検査につき受診義務があると主張するが、仮に教職員に対し労安法の適用があるとしても、労安法六六条五項の規定が直ちに教職員に対する受検義務を認める根拠となるものではない。被告は、右の受検義務の根拠として、施行規則九条ないし一一条に教職員に対する定期健康診断の際の検査項目として「結核」の有無、その検査方法として「エックス線間接撮影」が規定されていることを挙げているが、健康診断の検査項目・方法等についての技術的基準について定めた施行規則の規定から教職員のエックス線検査の受検義務があることを基礎づけることには論理の飛躍がある。

また、事業者が労安法六六条一項ないし三項、六項に違反した場合には罰則の定めがあるのに対し、同条五項違反については罰則がないことからも明らかなように、同条五項の定めは、労働者の健康管理を十全ならしめるため規定されているものであり、労働者に対する不利益制裁の根拠となるものではない。

(2) 被告は、施行規則九条ないし一一条が、学校設置者の実施する教職員に対する健康診断の検査項目の一つとして結核の有無を挙げ、その検査方法はエックス線間接撮影によるものとされている旨主張する。しかし、施行規則が規定するエックス線間接撮影による結核検査は、以下のとおり、エックス線が人体に有害であって、その暴露量が増加するに従って癌の発生率が増加したり、遺伝因子に悪影響を与えるものであり、このことは医学界の常識となっていること、特に、エックス線間接撮影は照射量が多く、有害性が高いこと、他方、肺結核の発生率は今日極めて低いことに照らすと、不合理である。

① エックス線検査で放射線に暴露することによる悪影響として代表的なものには遺伝的影響及び悪性腫瘍の誘発があり、その場合、低線量暴露の危険を軽視してはならないとされ、国際放射線防護委員会(ICRP)は、制御できる放射線暴露について、次の三つの原則を提唱し、これが医療暴露の基本的ルールとなっている。そして、この三つの原則は、放射線による検診につき被験者が同意している場合にも遵守されるべきルールとされている。

ⅰ 不必要な放射線暴露を避けること(正当性)

放射線暴露によるリスクを上回る利益がない限り、その放射線暴露は不必要と判断されるべきであり、また、放射線暴露を伴わない他の方法で同じ効果が得られる場合には、その方法と放射線利用の方法の各利益と各リスクを相互比較していずれを選ぶかを決めるべきである。

ⅱ 暴露線量は、できるだけ低く保つこと(最適化)

放射線暴露が不可決なものであると判断され、放射線暴露を伴う行為を実際に行う場合、放射線暴露をできるだけ少なくする努力・工夫をしなければならない。

ⅲ 一定レベルを超えて暴露しないこと

ⅰ及びⅱの条件が満たされている場合でも、ICRPが勧告する一定のレベル(線量当量限度)を越えて暴露してはならない。

線量当量限度は、昭和五二年当時は一般人で一年間に五ミリシーベルト(0.5レム)、昭和六一年当時は原則として一年間に一ミリシーベルトと改められ、平成二年には「連続するどの五年間についても平均一ミリシーベルト」とするよう提案されている。

② 昭和五六年時点までに、四〇歳未満の年齢層の労働者を対象とした胸部エックス線撮影については、リスクが大きく、その実施は必ずしも正当化されないと医学専門家による報告があり、世界的に見て、エックス線間接撮影による集団検診を中止する傾向が顕著となっている。

③ 日本でも、昭和五六年六月一九日に公衆衛生審議会結核予防部会が「結核の健康診断の実施方法について」と題する答申を行って、若年層における定期検診の見直しを提言し、これを受け、昭和五七年には、「若年層の結核の罹患状況の著しい改善により定期健康診断において患者発見率が低下したこと、早期発見による結核予防の効果をエックス線間接撮影における健康上の危険とのバランス等を考慮し」て、施行規則が一部改正され、結核の定期健康診断の実施が縮小された。

④ 学童生徒に対する胸部エックス線撮影は、従来年一回以上とされていたが、昭和四九年からは、小学生は入学時のみ、中学生は二年生のときのみとされ、昭和五九年からは、高校生も三年間に一回とされた。

市教委自身、本件処分時には、学校保健法施行規則に特に規定がないのに、妊娠中の女子職員についてはエックス線撮影の受検を免除していた。

(3) 原告は、結核の既往症がないことはもちろん、結核に罹患していることを窺わせる兆候もなく、かえって、後記3(一)のとおりの喀痰検査等の結果異常なしの結果を得ているのであるから、結核に罹患しているとは考えられない状況にあった。

(4) 原告は、過去において相当のエックス線暴露歴があり、昭和四九年当時からエックス線検査を有害と考え、これ以上のエックス線暴露に強い危機感を持ち、昭和五二年を除き、昭和五〇年から昭和五四年まで毎年エックス線検査を受検していなかった。

(5) 以上からすると、原告に胸部エックス線撮影を命ずる根拠はないというべきである。

(二) それにもかかわらず、原告には本件エックス線検査を受検すべき義務があることを前提に、近藤校長の本件エックス線検査の受検命令がされた点で、同受検命令は違法であって、これを正当化する根拠はなく、したがって、近藤校長の違法な受検命令に係る本件エックス線検査を原告が拒否したことには理由がある。

2  懲戒事由非該当その二

以下の事実によれば、本件処分に当たって、原告の職場離脱の事実をもって地公法二九条一項一号及び二号の懲戒事由に当たると解することは許されない。

(一) 職務に専念する義務の特例に関する条例二条三号は、地公法三二条に基づき、「……人事委員会に対して……勤務条件に関する措置を要求し、若しくは、不利益処分に関する不服申立てをし、又はこれらの要求若しくは申立ての審査に当たり、当事者として人事委員会へ出頭する場合」には職務専念義務が免除される旨規定している。

原告は、勤務条件に関する措置を要求するに当たり、当事者として人事委員会に出頭するため、近藤校長に対し、半日の職務専念義務の免除の承認願を提出した。

(二) ところが、原告の右承認願に対し、近藤校長は、その時間を大幅に制限し、午後二時三〇分以降についてのみ承認した。

(三) しかしながら、近藤校長の右の一部不承認は、その権限を濫用し、原告に対する嫌がらせとして原告の措置要求を制限するものであり違法である。

3  判断の合理性逸脱

(一) 原告は、昭和五八年三月二二日、愛知県碧南保健所で喀痰検査及び血沈検査を受け、同年五月一七日付けで異常なしとの検査結果を得て、これを近藤校長に報告した。

(二) 労安法六六条五項が、「労働者は前各号の規定により事業者が行う健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行う健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行うこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときはこの限りでない。」と定めていることに照らしても、原告が(一)の喀痰検査及び血沈検査を受け異常なしとの検査結果を得ているのに、なお、原告が本件エックス線検査を拒否したことを問責するのは、本件処分をするに当たっての判断として合理的許容限度を超える。

4  適正手続違反

地公法二九条に基づく懲戒処分は被処分者にとって不利益処分であり、その処分に先立ち、適正な手続の保障として、被処分者に処分とされるべき事実を告知し、その弁明の機会が与えられるべきであり、その手続を欠いた処分は右適正手続に違反したものとして取り消されるべきである。

これを本件に即していうと、第一に、市教委が愛知県教育委員会に対し、内申を提出する段階で、市教委が原告に対し処分すべき事実を開示して原告の弁明を求め、第二に、被告は内申書を受領した段階で原告に処分すべき事実を開示して原告の弁明を求める手続を履践すべきであったというべきであるにもかかわらず、これらの手続は何ら履践されることがなかった。

5  本件処分の過重性

本件処分は、三か月間にわたって原告の給料及びこれに対する調整手当の合計額の一〇分の一を減給するというもので極めて重いが、これは本件処分の決定に当たり、被告が原告に対し昭和五六年一〇月一日付けでした減給処分の存在が考慮されている故である。しかしながら、右減給処分は理由がなく、その取消しを求めて提起した名古屋地方裁判所平成元年(行ウ)第三二号事件で取り消されるべきものであるから、これを考慮してされた本件処分は重きに失して違法である。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(なお、判決理由中に記載されている各書証は、いずれも成立に争いがないか、真正に成立したことが認められるものである。)。

(裁判長裁判官福田晧一 裁判官立石健二 裁判官西理香)

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